屋代さんの、はじめの一歩(最初に作ったものや、踏み出した瞬間など)を教えてください。
YOASOBIが生まれるきっかけにもなった物語投稿サイト『monogatary.com』をつくったことがはじめの一歩だと思っています。当時社内で、音楽分野以外の新規事業を立ち上げるのはかなり珍しかったんです。でもその中でも色々な人から知恵を借りながら進められたことが、その後のチャレンジにも繋がっていると思います。
そこからYOASOBIが生まれるまでの経緯を教えてください。
monogatary.comのサイトから生まれた作品のうちの一つがYOASOBIだったという感覚で、YOASOBIだけ特別なことをしたわけではありませんでした。会社の事業なので、「なぜこの部門で、この時期に、このチームでやる必要があるのか」という意義づけをして、周りの人を巻き込んで進めることが必要でした。YOASOBIの場合は、新規事業のmonogatary.comからの誕生というユニークさや、同期の山本との新人プロジェクトというポイントも前面に出して、社内の理解を得ていきました。
屋代さんは学生時代、どんな音楽を聴いていましたか?
洋楽や邦楽のロック、ボーカロイドやアニソン・声優ソングが多かったです。高校生くらいまでは、自分のことを周りに発信するのが、あまり得意ではなかったんです。恥ずかしい感じというか…。でも大学生になって、なんか急にどうでもよくなったんですよね。そこからは友達にも好きな音楽の話をしていました。
ご入社された2012年は、音楽業界も不況だったと聞いています。当時エンタメ業界で働くことに迷いはありませんでしたか?
当時は就職氷河期かつ東日本大震災の時期だったこともあり、就活は本当に大変でした。なんとか大手銀行とソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の2社から内定をもらいました。父親には銀行を勧められましたが従わず、思い切って面白そうな方を選んだことを覚えています。(銀行は400人くらいの大人数に内定が出ていて、SMEは18人だけだったので、なんとなくこっち!と思った記憶もあります(笑))
学生時代の経験で、社会人になった今も活きていると思うことはありますか?
仕事では、自分の「好き」をベースに働けている感じがします。その「好き」は学生時代に形成されたものです。学生時代の時間とお金を使って得た知見と「好き」に対する自信が、今でも自分の強みになっていると思います。
新卒1年目の時に「10分間スピーチ」というチームメンバーの前で話す時間がありました。お題は決められていなかったので、僕は大学時代に勉強していた統計学の知識を使って「どういう変数がランキングや再生回数に繋がるか」みたいな話をしました。そうしたら、めっちゃ上司に怒られて(笑)「賢いかもしれないけど、こんな話は一ミリも面白くないし、小手先の知識をひけらかしても意味がない。 自分の好きをもっと発信していきなさい。そうしたら好きなものから寄ってきてくれる」と言われたんです。その言葉をきっかけに自分の好きなものを周りに発信できるようになって、結果的にYOASOBIを含め自分の好きなもので仕事ができている気がします。
屋代さんにとって、エンターテイメントとは。
ん~とんでもない質問ですね(笑)エンターテイメントに限らず、どんな商品やサービスでも言えることだと思いますが、結局やっている側が楽しいかどうかがお客様に伝わると思うんですよね。お客様を楽しませるということの一番手前に、作っている側のチームメンバー、自分の身近にいる人、そして何より自分自身がいます。そのみんなが楽しめているかどうか。それが僕のエンターテイメントの概念の捉え方ですね。
読者の高校生/大学生たちにエールをお願いします!
日々選択の連続だと思います。挑戦するもしないも自分次第だし、無理に踏み出そうとする必要もない。ただ、日々選択や決断をしているということ自体は自覚した方がいいと思っていて、そうすることで、いつかの大きな選択や決断のときに、思い切れるんじゃないかな。そのためにはインプットを続けることや、仲間をつくることも大切です。その積み重ねが、本当に踏み出すべきときの勇気と自信になります!
<コラム:学生時代影響を受けた作品>
・スフィア「A.T.M.O.S.P.H.E.R.E」
声優ユニットスフィアの1stアルバムです。大学生当時、限られたバイト代のほとんどを、スフィアをはじめとする声優アーティストやアニメイベントに注ぎ込んでいました。コンテンツそれ自体のみならず、SNSを通じて全国に世代を超えた繋がりもできました。時間もお金も人一倍使ったことが結果として、付け焼き刃ではないそのカルチャーへの理解度や、ファンビジネスの勘所のようなものの基礎になっていると思います。
・じん「カゲロウデイズ」
この曲を起点としたメディアミックスプロジェクト『カゲロウプロジェクト』の社会現象化に、monogatary.comの立ち上げの際も、またその後小説を音楽にするプロジェクトとしてのYOASOBIの誕生の際も大きな影響を受けています。心惹かれるものに出会った時に、自分だったらどうやるか、何ならできるかを常に考えることが、発明のスタート地点だと思います。
屋代陽平
出身
東京都出身
職種
プロデューサー
経歴
株式会社 ソニー・ミュージックエンタテインメント 音楽配信事業部門を経て、2017年に新規事業の小説投稿サイト「monogatary.com」を立ち上げ。その企画として、2019年に小説を音楽にするユニット・YOASOBIが誕生する。現在もさまざまなアーティストやプロジェクトを手がけ、2024年からは新レーベル Echoesの立ち上げメンバーとして活躍している。